• 2013年9月27日
  • 2013年10月18日

Dr.なかの 病院視察レポート 2013夏

『 Dr.なかの 病院視察レポート 2013年夏 』

(記 中野和俊)

 2013年夏、私たちはアメリカ合衆国にある2施設、シアトル小児病院とソルトレイクにあるプライマリ小児医療センターを視察してきた。両施設とも大きな特徴を持っており、私たちのクリニックのあり方に大きな示唆を与えるものであった。 

2013年8月26日、シアトル小児病院を見学。

この小児病院ではPovick Julieさん(女性)が案内してくださった。彼女は国際交換留学、見学者、advocacy(こども擁護の立場に立って発言する人)のマネージャーであった。彼女の腕はサリドマイドの後遺症と思われるハンディキャップを負っていたが ハンディを感じさせないくらいに明るく熱心に説明してくれて、我々は彼女の説明に次第に引きつけられていった。

 彼女が最初に案内してくれたところはLife Saving Place、「子供たちの命を守るところ」でした。入院した子供たちがまずここに来ると聞いて驚いた。子供たちは入院という新しい環境でこれからどうなるのだろうという不安、恐怖を持ってやってくる。その恐怖を取り除くためにdog therapy(犬による療法)、music therapy(音楽療法)、art therapy(芸術療法)がなされているという。私たちのクリニックでも、子供たちができるだけ怖がらず笑顔で診察や処置が受けられるように努力工夫している。子供たちが恐怖心を持たずに診療を受けるというのは彼らが薬をしっかり飲むのと同じくらい大切と考え診療してきた。シアトルに来て同じような考えを持った人たちがいると知りうれしく思い、さらに体系化して取り組んでいることがおおきな驚きだった。さらに驚くのは、患児に付き添う保護者のケアだ。病院には保護者の宿泊施設が準備され、また、病院内に保護者がリラックスできる部屋があり、そこには保護者の様々な不安に応える職員がいる。これらの対応は、保護者の気持ちの安定が子供たちの心の安定に必要であることを病院スタッフが深く理解している証しだ。

 この病院にはアラスカ、海外から患者さんが集まり、どんな人種、どんな言語、貧富を問わず入院できるよう病院として対応しているとのことだった。この精神もすばらしい。病んでいるすべての子に医療を行いたいは小児科医の理想だ。

 すばらしいPovick Julieさんの案内に深く感動し、日本に来られる時は是非うちのクリニックに立ち寄っていただくようお願いして病院を後にした。

シアトル小児病院シアトル小児病院1シアトル小児病院2

シアトル小児病院3シアトル小児病院モニュメントシアトル小児病院モニュメント2

2013年8月30日、Salt Lake City プライマリ小児医療センターを見学。

Salt Lake City(ソルトレイクシティ)プライマリ小児医療センターはDavid Dee氏の紹介で見学できた。私たちがSan Diego(サンディエゴ)に20余年前に留学していた時からの友人だ。Dee氏のご尊父はこの病院の創設に大きく関わった方だ。Dee氏とともに病院に向かうと、小児神経医のBonkowsky氏ら4名の方々が出迎えてくださり、病院内の見学を行った。

この病院は、ユタ州全体のセンター病院として重要な働きをしている。病院にヘリポートが併設している。ユタ州は山間部が広大であり、そのため登山者、ハイキング者の転倒や滑落の事故が多く、毎日ユタ州全域からヘリコプターを使って緊急の患者が送られてきているとのことだ。そのため、小児整形が重要な柱の一つとなっている。この病院も、シアトル小児病院同様に子供のケアに力が注がれていることがわかった。見学の途中の廊下ではtherapy dog(治療犬)に遭遇した。大型犬だが穏やかな表情をしている。絶対に吠えたり噛み付いたりしないそうだ。隣にいた飼い主のボランティアの方もtherapy dog同様穏やかな優しい表情を浮かべていた。

Salt Lake Cityプライマリ小児医療センターはユタ大学の敷地内にあり基礎研究施設を持っている。Bonkowsky氏も脳神経発達の基礎研究に従事している。彼はUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の出身で私がUCSDに留学していたころ在学中で、私のアメリカでのボスであるHass 教授を知っていた。そんなことから親近感がわいて私たちは彼の研究施設を見学させてもらった。彼はzebrafishを使って神経発達の病理染色をやっていた。飼育室には何千匹ものzebrafishが飼育されていた。研究の充実していることに驚いた。

子どもたちに心のトラウマをできるだけ作らないようにするために私が以前から子供の診療について「子供たちを出来るだけ泣かせないように」診療、治療しなくてはならないと考え工夫しながら診療していた。

2病院の視察を終えて、これらの病院の医療技術が高いのは予想通りだったが、同時に、子供の心のケアをDog therapy、音楽療法、芸術療法など組織的、体系的に行っているのに驚いた。

私たちのクリニックもこれらの病院のよいところを取り入れてこれからも進んでいきたい。

  Dog therapyをするには私たちの待合室が狭すぎるのが難点だがーーー。

Dee氏肖像画ソルトレイク小児病院

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